確定根抵当権の債務者変更(債務の遺産分割)
確定根抵当権の債務者変更(債務の遺産分割)
播磨町(土山)の司法書士 北谷です。
抵当権の債務者が死亡した場合、実務上は(金融機関の指示により)、
1件目:「相続」を原因として共同相続人全員に債務者を変更(抵当権変更登記)し、
2件目:「債務引受」を原因として相続人の一人を債務者に変更(抵当権変更登記) することとなります。
ただ、債務の引受が遺産分割協議によりなされ、この協議につき抵当権者の承諾がある場合は、1件目の登記をすることなく、いきなり「相続」を原因として、債務引受をした相続人のみに債務者変更(抵当権変更登記)することが可能です。
その根拠となる先例は次のとおり。
(昭和33年5月10日民甲964号)
共同相続人丙、丁間において、積極財産を承継しない丁が抵当権付債務を承継した場合の債務承継による抵当権の変更登記は、遺産分割の協議により丁が債権者の承認を得て当該債務を引き受けたのであれば、丁のみの債務の承継による抵当権の変更の登記をすべきであり、(以下省略)
前置きが長くなりましたが、このことが確定根抵当権(元本が確定した根抵当権)の場合にもあてはまるのか、というのが今回のテーマです。
事案の概要
1.元本が確定していない根抵当権の債務者が死亡(相続開始)
2.相続開始後に「指定債務者の合意の登記(民法398条の8・2項)」しないまま、6ヶ月が経過。
3.2.により、相続開始時に根抵当権の元本確定とみなす(民法398条の8・4項)。
4.その後、遺産分割協議で相続人Aが債務を引き受け。
5.根抵当権者が4.の遺産分割協議に承諾。
まず、遺産分割協議書及び根抵当権者の承諾書を添付して「相続」を原因として1件で債務者をAとする根抵当権変更は出来ないと解されています。
その理由は、文献等をあたっても明らかでない(情報をお持ちの方はご一報下さい)のですが、少なくとも、元本確定の登記、または元本確定が明らかな登記がなされていない状態でこの登記を申請しても受理されないでしょう(債務引受による債務者変更登記は元本確定後しかできない登記であるため)。
したがって、まずは、「相続」を原因として債務者を相続人全員とする根抵当権変更登記をすることとなります。
次に、「遺産分割」を原因として、債務者をAとする変更登記ができるかですが、先例等はないようです。
そこで、管轄法務局で事前打ち合わせしたところ、担当者の回答は「受理されない。」でした。ただ、その理由は少し意外でした。
その内容とは、昭和34年の判例(後掲)により、債務は遺産分割になじまない(遺産分割の対象にならない)ことが明らかになり、本来であれば先述の先例も変更されるべきところ、それが今までなされていない。
このように、問題のある先例を他のケース(確定根抵当権のケース)にまで当てはめてることは出来ない、といったものでした。
何だか腑に落ちないところもありましたが、遺産分割による債務引受にどうしてもこだわる必要も無かった(むしろ①相続、②債務引受で登記するほうが好都合だった)ため、この話はここで終わりとなります。
(最判昭和34年6月19日)
債務者が死亡し、相続人が数人ある場合に、被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然に分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継するものと解すべきである。
では、話を少し戻して、元本確定の登記または元本確定が明らかな登記がなされている状態であれば、遺産分割協議書及び根抵当権者の承諾書を添付して「相続」を原因として債務者をAに出来るかですが、上記の理由によれば、これも受理されないということになるでしょう。
今回は僕が経験した内容となりますので、実際に同じ登記を予定している方は(いる?)、事前に管轄法務局にて確認して下さい。
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